研究内容
中枢性疾患の診断マーカーの探索と発症メカニズムの解析
当研究室では、これまでカルボニルストレスが関与するとされる中枢性疾患に注目し、その発症に関わる成分の分析と、標的となるカルボニル化タンパク質の解析に取り組んできました。現在は、カルボニルストレスの関与が推定される様々な疾患におけるバイオマーカーや標的タンパク質を解析すると共に、その蓄積と分解機構について研究を進めています。
カルボニルストレスが関与する疾患の発症と軽減機構に関する研究
「カルボニルストレス」とは、糖代謝の過程で副生成物として産生するメチルグリオキサール(MGO)などの反応性カルボニル化合物が、タンパク質と反応して形成する終末糖化産物(AGEs)が過剰に生体内に蓄積した状態のことです。AGEsの蓄積は老化の指標として良く知られていますが、カルボニルストレスは末梢から中枢まで多様な疾患の発症に関与することが知られてきています。特に、糖尿症性腎症患者の腎組織中でのAGEsの蓄積は顕著であり、その病態の進行に関与している可能性が指摘されています。また、最近では代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病やパーキンソン病の発症へのカルボニルストレスの関与が注目されていますが、中枢性疾患とカルボニルストレスの関係は未だ不明な点が多く残されています。一方で、東京都医学総合研究所の糸川らは統合失調症の末梢血を解析し、血中にAGEsが蓄積している方が存在することを発見しました。私たちはこれらの知見に興味を持ち、MGOやAGEsに注目した研究を進めています。
MGOは人体に有害とされていますが、生体内にはMGOの代謝酵素であるグリオキサラーゼ1/2(GLO1/GLO2)が存在しています。また、ビタミンB6の活性型であるピリドキサミンはMGOに対する消去能を持っており、MGOに対するこれらの防御機構を活性化させることでAGEs蓄積によるカルボニルストレスを軽減させることができると考えられます。私たちは東京都医学総合研究所で作成されたMGO代謝不全マウスを用いた脳内の解析を行っています。これまでの解析から、このマウスには行動異常が認められており1)、前頭皮質や海馬、そして線条体においてMGO由来のAGEsが過剰に蓄積していることを明らかにしています2)。これらの結果は、MGOやAGEsの過剰な産生や蓄積が脳機能に影響を与えることを示しています。従って、脳内に過剰に産生、蓄積したMGOの除去がカルボニルストレスを伴う中枢性疾患の治療に繋がる可能性があります。
現在、私たちは新たなAGEs測定系を確立することでMGO除去能を有する化合物の探索に取り組んでおり3)、これら化合物の中枢性疾患の治療への応用を目指して研究を進めております。
MGO代謝不全マウス脳においてMGOとAGEsの蓄積が認められた1), 2)。 AGEsの新たな測定法を確立し、MGO除去能をもつ化合物を探索した3)。
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