研究室紹介

疾病のバイオマーカーを見出し、自ら開発した分析法を用いて発症機序の解明を目指す!

ご挨拶

 

明治薬科大学薬学研究科・分析化学研究室では、酸化ストレス性疾患に注目し、分析技術を駆使して新たな診断マーカーを見出すために研究を行っています。更に、一歩踏み込んで、その原因物質や病態の発症機序を明らかにするべく、マーカー候補として注目している生体分子に対し、多角的な解析に挑戦しております。

 

2013年に、私が本研究室を主催することになって初めに考えたことは、薬学部の分析系分野において期待されている研究とは何か?という課題です。その頃の基礎研究のキーワードは、「臨床への橋渡し」であり、分析学的には、疾病の早期発見と薬物等による治療効果のモニタリングのために必要とされるバイオマーカーの探索と、その分析法の開発が望まれていると感じました。そこで、臨床の場において、どのような疾患のマーカーが求められているのか、そのニーズを探すところから出発し、病院や医療施設を有する研究機関との共同研究を展開して、今日に至っております。

この10年の間に行った、国立精神・神経医療研究センター、東京都医学総合研究所、結核予防会複十字病院との共同研究は、着実に進展し、臨床の場において有用な成果が得られ始めていることを実感しております。

今後も、得られた知見を、実臨床の場に橋渡し、その結果として生じる、次なる疑問や課題に取り組んでいくというやり取りを繰り返すことで、医療の場において、真に貢献できる薬学基礎領域の存在意義をアピールしたいと考えております。

 

具体的には「酸化ストレス性疾患とバイオマーカー」をキーワードとして、以下の研究を行っています。

1) 酸化ストレスが関与する神経変性疾患の診断・治療の指標となるバイオマーカーを見出し、その測定法を開発する。

 

2) カルボニルストレス性疾患の予防、治療薬の開発に繋がる化合物のスクリーニングに用いる、有用な評価系を構築する。

 

3) 神経変性疾患における、タンパク質分解系の変化を詳細に評価し、病態に関わる新たな制御因子を見出す。

 

4) 生体内で生じる硫化水素の存在様態であるスルファンサルファー(結合型硫黄)の測定法を開発し、その疾患への関与を調べる。

 

5) 赤血球中における睡眠時無呼吸症候群の診断マーカーを見出すと共に、その疾患のレドックス制御系とタンパク質分解系の変動について解析する。

 

実臨床の場で利用される薬の多様化は、日進月歩であり、王道であった低分子医薬品から、タンパク質製剤、そして抗体へと目まぐるしく変化しており、近い将来は核酸医薬や細胞製剤などが登場すると考えられます。それに伴って、新たな分析方法や診断法の開発が求められます。そのような変化に対応するためには、「基礎学力」を大学生時代にしっかり身につけていることが必要です。基礎的な研究に基づいて、応用的な技術は発展していくものであると考えます。

薬学における分析は、薬局方収載の古典的な手法から、大型機器を用いる方法へと劇的に変遷を遂げてきましたが、その開発の節目では、基礎的な原理と手法に立ち返って、発想を練り直しながら進化を遂げてきたと思います。今後も、分析法の開発は生命科学や創薬科学の発展の上で必須の要件であり、その意味で、薬学領域の分析化学は、医学の進歩を支え続ける礎の一端を担う重要な学問なのです。

明治薬科大学 分析化学研究室 教授 小笠原裕樹